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東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)1597号 判決 1967年9月08日

理由

訴外毛利守孝が金額、満期および振出日の各欄を空白としたほかその他の手形条件欄に原告主張のとおりの記載をした約束手形用紙一通に振出人として被告会社代表者および被告毛利嗣三の記名捺印を代行して手形を作成した事実および右訴外人が右の代行期限を与えられていた事実は当事者間に争いがない。

そして、原告が現に所持し右の手形であると主張し、その真正に成立したことについて被告らが争わないと認められる甲第一号証の一の振出人作成部分(被告らはその成立を否認すると述べたけれども、その陳述は本件第四回口頭弁論期日までになされたものであつて、その後の第六回口頭弁論期日に被告らが前示のとおり右手形の毛利守孝による作成および同人の代行権限に関する事実を認める旨の陳述をした点から見ると、被告らは右甲号証の成立を認めたものと解すべきである。)。《証拠》を総合すれば、毛利守孝が被告らに代つて作成した右の手形は昭和四〇年一〇月以前に守孝から中島嘉久に任意交付された事実および現に被告の所持する前記甲第一号証の一は右の手形にほかならない事実を認めることができる。《証拠》中、右の手形を中島に渡した覚えはないという供述部分は措信しがたく、他に以上の認定に反し、右の手形が被告らの意思に基づかずに流通におかれた事実を窺い得るような証拠はない。

さらに、前記甲第一号証の一によれば、原告の所持する右の手形には、金額、満期および振出日の各欄に原告がその後白地補充がなされたと主張するとおりの記載がある事実および右手形の裏書欄には原告主張のとおりの裏書が順次記載されている事実が認められる。

被告らは、仮に被告らに本件手形の振出人としての責任があるとしても、毛利守孝は本件手形を中島に交付するに際し、金額欄の白地補充権の範囲を三〇〇万円もしくは五〇〇万円の範囲に限定したものである、と主張する。しかし、本件手形が毛利守孝から中島に交付されるに際し右のような白地補充権の範囲を制限する旨の合意が両者間に成立した事実を直接認めるに足りる証拠は全くない。もつとも、《証拠》によると、本件手形にはその振出当時には金二〇〇円の印紙が貼用され振出人欄に押捺されている被告毛利の印章による消印がなされていただけであつたが、その後原告において手形の呈示をするに際し金一〇〇〇円の印紙が増貼され原告の印章による消印がなされている事実が明らかである。そして印紙税法の規定によれば、約束手形に金額二〇〇円の印紙を貼用すべき場合は金額五〇〇万円以下の手形の場合でなければならないことは被告らの主張するとおりである。また、同法第四条第四、五項の規定によれば、金額白地の約束手形については白地を補充したときに補充者がその手形を作成したものとみなされ、白地手形の振出人は振出に際し印紙を貼用することを要しない旨が定められている。しかし、それだからといつて、本件手形に被告らが二〇〇円の印紙を貼用した事実があるだけでは、《証拠》によつて認められる、被告らが従来融資を受けるために振出していた約束手形の一通の金額は最も多額の場合でも五〇〇万円に留まつていた事実を考えあわせても、他に特段の事情のない限り、未だ本件手形の金額欄の白地補充権の範囲が被告ら主張のとおりに制限されていた事実を認めるには足りないといわざるを得ない。したがつて、本件手形の金額欄になされた補充が補充権の制限を超えてなされた不当なものであることを前提とする被告らの抗弁は採用の限りでない。

そして、《証拠》によれば、本件手形の白地部分の補充(満期および振出日の各欄についても)は満期前になされたものであることが認められ、《証拠》によれば、本件手形の呈示に関する原告の主張事実を認めることができる。

そうすると結局、本件手形の共同振出人としての被告らに対し、本件手形金二四五五万円とこれに対する満期以降完済までの年六分の割合による法定利息とを各自支払うべきことを求める原告の本訴請求は正当として認容しなければならない。

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